再現答案民事系科目第1問(民法)

民事系科目第1問

設問1
1 BはAに対して、本件売買契約(555条)に基づく代金支払請求として代金50万円の支払いを請求する。
2 これに対してAは、本件売買契約に基づく目的物引渡債務との同時履行の抗弁権(533条本文)を主張する。
⑴ もっとも、Bは一度松茸を用意していることから、「履行の提供」があったとして同時履行の抗弁権が消滅しないか。
ア 本件売買契約はB所有の乙倉庫において松茸の引渡しをすることになっているから、Bの目的物引渡債務は取立債務である。そのため、履行提供は履行の「準備」及び「通知」で足りる(493条ただし書き)。本件において、Bは本件売買契約の約定に合う松茸5キログラムの箱詰めをして「準備」し、Aに対して電話で連絡しているから「通知」が認められ、履行提供をしている。
イ もっとも、履行請求に対する同時履行の抗弁権を否定するためには一度だけ履行提供しただけでは足りず、履行提供を継続する必要がある。行使上の牽連性を確保すべきであるからである。本件では、後述の通り、Bは目的物引渡債務の履行提供を継続することができなくなっているから、同時履行の抗弁権を否定できない。
⑵ もっとも、松茸の盗難により引渡債務は消滅したとして、同時履行の抗弁権が消滅しないか。
ア 種類債務であっても特定が生じた場合には履行不能になりうる。特定が生じる「物の給付をするのに必要な行為を完了」とは、履行の準備及び通知では足りず、目的物の分離が必要である。本件では、Bは、松茸を収穫して乙倉庫に運び入れた上で、本件売買契約の約定に合う松茸5キログラムを箱詰めして、他の松茸と分離している。
したがって、Bは「物の給付をするのに必要な行為を完了」したといえ、目的物は特定した。
イ そして、何者かが乙倉庫内の松茸を盗み去っているから、Bの上記松茸の引渡債務は履行不能となった。
⑶ もっとも、履行不能による損害賠償請求義務(415条後段・416条)との同時履行の抗弁権が存続しないか。
ア Bは、特定物の引渡債務者として善管注意義務を負う(400条)。CにはBから受けた指示をうっかり忘れて簡易な錠のみで施錠して倉庫を離れるという注意義務違反があるところ、報償責任の観点から、Cを雇うBの注意義務違反と同視できる。そのため、Bに帰責事由が認められるとも思える。
イ もっとも、本来Aが引取りに来るはずであった9月21日午後8時頃から翌日午前7時頃までは、BはCに対してしっかり施錠するよう指示し、CもBの指示に従い強力な倉庫錠を利用し二重に施錠しているから帰責事由が認められない。そうすると、Aが引取りに行くことができなかった時点以降のBの帰責事由は否定すべきではないか。
 債権者が引渡債務の債務者に対して取立てを延期することを通知し、これを債務者が了承した場合には、以後も債務者は善管注意義務を負うべきである。このように考えても、了承がある以上、債務者にとって過大な負担とはならないからである。
 本件では、AはBに対して21日午後8時頃、今日は引取りに行けないと電話で通知しており、Bもこれを了承しているから、Bは以降も善管注意義務を負っていた。
ウ したがって、損害賠償義務が発生し、上記抗弁権が存続する。
3 よって、Bの請求は認められない。
設問2
第1 小問⑴
1 他人の所有物に対する不法占有による所有権侵害をしている場合、撤去義務を負うのは原則として不法占有をしている物の所有者である。撤去する権限を有するのは原則として所有者であるからである。
2 もっとも、所有権者以外の者に使用・収益権が移転している場合には、その者に撤去権限が帰属するため、例外的に撤去義務を負う。本件では、AD間における中古トラックの売買契約において、Aが代金完済するまで中古トラックの所有権をDに留保することになっているから、Dが所有権者として撤去義務を負うとも思える。しかし、Aはトラックの引渡しを受け占有し利用できるとされているから、使用収益権はAに移転しており、Aが撤去義務を負う。
3 よって、Dのアの発言は正当である。
第2 小問⑵
1 自らの意思で対抗要件を具備した者は、所有権の喪失についても対抗要件を具備しない限り、その喪失を第三者に対抗することができない。そして、所有権の喪失を対抗できないのと同様に、使用収益権の喪失も第三者に対抗することができない。
2 本件では、Dは自らの意思で中古トラックの対抗要件を具備していたものと考えられる。そして、上記売買契約をしたものの、DからAに対する所有権の移転登録(法5条)がされていない。したがって、Dは使用収益権の喪失をEに対抗できず、撤去義務を負う。AはDに対して廃業通知はしたものの転居先を通知することはしておらず、そのためにDはAの所在を知らないのであるから、Dが無断で中古トラックの撤去をしてもAの使用収益権を不当に害することにもならない。
2 よって、Eは丙土地の所有権に基づく返還請求権として、丙土地を不法占有しているDに対して、撤去請求ができる。
設問3
1 本件遺言の解釈
⑴ Hについて
 Cは生前、Hに対する廃除の申立てをしており確定している。また、本件遺言において廃除の意思を変えるものではないとしているから、廃除の取消し(894条2項・893条)ではない。そのため、Hは相続人ではない。
 したがって、本件遺言は、相続人以外のHに対して、200万円の定期預金を特定遺贈(964条)する趣旨である。
⑵ F及びGについて
 F及びGはCの「子」であるから相続人である(887条1項)。
 そうすると、本件遺言は、積極財産である1200万円の定期預金をFが、600万円の定期預金をGが承継するよう、遺産分割方法を指定(908条)する趣旨である。
 そして、Cは借入金債務300万円の存在を認識していたはずであるところ、Cは気にかけてくれたFをGよりも多く積極財産を相続させる意思であると考えられるから、借入金債務を多く相続させる趣旨ではない。
 したがって、F及びGは、借入金債務の2分の1に当たる150万円ずつを承継する。
2 よって、Fは703条に基づき150万円を請求できる。
以上(2504文字)