結果のご報告

平成30年司法試験の合格発表が、先日行われました。



…合格。



自分の番号を見つけた瞬間、喜びとも安堵感とも違う、よくわからない感情とともに涙がじんと込み上げてきました。

すぐに親に連絡。親も電話越しに涙ながらに喜んでくれました。


じっくりと合格の喜びを味わいたいと思います。



そして、今年だめだった友人にも、来年同じ喜びを感じてほしいと心から願います。

受験で苦労した分、合格したときの喜びも深く大きいと思います。


来年以降もがんばる方々には、エールを送りたいです。がんばってください。




再現答案刑事系科目第2問(刑事訴訟法)

刑事系科目第2問

設問1
第1 捜査①
1 捜査①は、撮影対象の性状を認識するものであるから、「強制の処分」(197条1項ただし書き)に該当するのであれば、「検証」(218条1項)にあたり、検証令状なく行われている点で令状主義に反し違法となる。
⑴ 「強制の処分」とは、強制処分法定主義及び令状主義によって保護すべき重要な権利利益の侵害を伴う処分に限定すべきである。そこで、相手方の合理的に推認される意思に反し、重要な権利利益を侵害する処分をいうと解する。
⑵ 捜査①はビデオカメラによる撮影及び保存を伴うものであるところ、肉眼で観察されることを超えて、容ぼうを撮影・保存されることまでは通常許容していないと考えられるから、捜査①は相手方の合理的に推認される意思に反する。
 もっとも、捜査①は公道上での容ぼうを撮影するものであるところ、公道上では他人に容ぼうを観察されることは想定されており、撮影についても同様に一定程度想定されているのであるから、容ぼうについてのプライバシーの要保護性は小さい。そのため、重要な権利利益を侵害するものとは言えない。
⑶ したがって、捜査①は「強制の処分」である「検証」には該当せず、令状主義違反はない。
2 もっとも、容ぼうについてのプライバシーに対する一定程度の侵害は認められるから、比例原則の観点から、必要性等を考慮して具体的状況の下で相当といえる場合でなければ違法となる(197条1項本文)。
⑴ 捜査①の撮影対象である中肉中背の男は、本件詐欺事件で犯人がVに渡した本件領収書に記載された住所に存在している本件事務所の玄関ドアの鍵を開けて中に入っているから、本件詐欺事件への関与の疑いがある。また、中肉中背という特徴は、Vが説明した犯人の特徴と一致するから、本件詐欺事件の犯人との嫌疑が認められる。そのため、中肉中背の男の容ぼうを撮影しその映像をVに見せることにより、この男と犯人が同一人物であるかを確認する必要があった。また、本件詐欺事件が代金100万円という高額な被害をもたらした重大事件であることからも、上記のように撮影の上、犯人との同一性を確認する必要性が大きかった。
⑵ 他方で、たしかに、捜査①は容ぼうを含めて撮影するものであり一定程度のプライバシー侵害を伴うものであるものの、上記のようにVに犯人との同一性を確認するためには容ぼうも含めて撮影することはやむを得なかったといえる。また、撮影時間も約20秒間と短時間に限定されている。そのため、上記の撮影の必要性との関係で、法益侵害の程度は合理的権衡を保っているといえる。
⑶ したがって、捜査①は本件事情の下で相当と認められ、任意捜査として適法である。
3 よって、捜査①は適法である。
第2 捜査②
1 捜査②が「強制の処分」たる「検証」にあたるのであれば、令状主義に反し違法となる。
⑴ 捜査②も撮影・保存を伴い、事務所という私的領域内を撮影するものであるから、合理的に推認される意思に反する。
⑵ では、重要な権利利益の侵害を伴うと言えるか。
ア 捜査②は、捜査①が公道上の容ぼうを撮影するものであったのと異なり、採光用の小窓から事務所内の様子を撮影するものである。「住居」に準じる私的領域に「侵入」されない権利は憲法35条によって保障されているところ、事務所は「住居」に準ずる私的領域といえるから、採光用の小窓から事務所内の様子を撮影することは「侵入」にあたり、上記権利を侵害するとも思える。
イ もっとも、事務所内は向かい側のマンション2階通路から小窓を通して見通すことができるのであるから、外部から見通すことができない住居の居室と比べて、そのプライバシーの要保護性は一定程度小さいと言える。また、捜査②の撮影時間は約5秒間と限られており、事務所内の情報を継続的に取得するものではない。さらに、撮影対象も事務所内の机上に置かれた工具箱に限られ、人の容ぼうなどは含まれていないのであるから、事務所内の情報を網羅的に取得するものでもない。そのため、事務所内の情報を継続的・網羅的に取得するものではなく、私的領域に「侵入」するものとまでは言えない。
ウ したがって、上記権利を害するものではなく、重要な権利利益の侵害を伴うものとは言えない。よって、「検証」には当たらず、令状主義違反はない。
2 では、具体的状況の下で相当と認められるか。
⑴ 捜査①によって撮影された映像をVに見せたところ、Vは「同一人物かどうか自信がありません。」と述べているから、いまだ甲と犯人の同一性を立証する証拠が不十分であった。また、甲は、Vが犯人が所持していたと説明したのと符合する赤色の工具箱を持っているものの、工具箱が赤色であることは特殊なことではないため、甲と犯人の同一性を立証には不十分であった。もっとも、Vが説明したのと同一の「A工務店」と書かれたステッカーが貼られていることを確認できれば、甲と犯人の同一性の立証に有力な証拠となるから、犯人性立証のためスタッカーが貼られていることを撮影する必要があった。また、ステッカーが小さく、甲が持ち歩いている状態では撮影が困難であった上に、事務所にはブラインドカーテンがかかっており公道からは事務所内の様子を撮影できなかったのであるから、採光用の小窓から事務所内を撮影する必要があった。
⑵ 他方、撮影時間は約5秒間と限定されているし、撮影対象も工具箱に限定され甲の姿などは含まれていないのであるから、上記必要性との間で合理的権衡が保たれている。
⑶ したがって、相当と認められ、任意捜査として適法である。
設問2
第1 本件メモの証拠能力
1 伝聞証拠は原則として証拠能力が否定される(320条1項)。伝聞証拠とは、公判廷外の供述を内容とし、要証事実との関係で、その内容の真実性が問題となるものをいう。
2 本件メモに記載された「耐震金具に不具合がある。すぐに工事しないと大変なことになる。工事代金は100万円。」という発言は、詐欺罪の実行行為たる欺罔行為に該当する。そのため、本件メモによってA工務店と名乗る男性(以下、「A男」という。)が上記発言をした事実を立証することにより、A男が詐欺の実行行為をしたことを立証することができる。したがって、本件メモの要証事実はA男が上記発言をした事実であり、Vの供述内容の真実性が問題となるから、伝聞証拠にあたる。
3 Vは「被告人以外の者」であるから321条1項3号の伝聞例外を検討する。
⑴ Vは脳梗塞で倒れ、今後意識が回復する見込みもないから供述不能である。
⑵ 本件メモは欺罔行為の立証に重要であり不可欠性もある。
⑶ 絶対的特信情況はあるか。外部的・付随的事情から判断し、供述内容も副次的に考慮する。
 本件メモは、A男が上記発言をした午前10時頃から近接した時点である同日午後7時頃に作成されたものであるから、記憶の減退による誤り混入のおそれは小さい。また、本件メモと本件領収書では、作成された日時が1月10日である点、工事代金が100万円である点で一致しており、本件メモの信用性は高いといえる。したがって、絶対的特信情況も認められる。
4 よって、同条により証拠能力が認められる。
第2 本件領収書の証拠能力
1 本件領収書によって交付行為の存在を立証する場合
⑴ 甲が工事代金100万円を受領した事実は詐欺罪における交付行為に該当する。本件領収書によって甲が100万円を受領した事実を立証する場合には、甲の供述内容の真実性が問題となるから、伝聞証拠にあたる。
⑵ 322条1項を検討する。交付行為の存在は甲にとって不利益であるし、任意性を否定する事情もない。したがって、同条により証拠能力が認められる。
2 甲がA男と同一人物であることを立証する場合
⑴ 本件領収書と本件メモは作成日、100万円という金額が一致しているから、A男が本件領収書を作成したことが推認できる。そして、本件領収書から甲の指紋が検出されているから、甲が本件領収書を作成したと推認できる。そのため、本件領収書の存在自体から甲とA男が同一人物であると推認できる。したがって、本件領収書の要証事実はその存在自体であり、非供述証拠であり、伝聞証拠には当たらない。
⑵ よって、証拠能力が認められる。
以上(3348文字)

再現答案刑事系科目第1問(刑法)

刑事系科目第1問

設問1
1 乙がPTA役員会において丙が甲に暴力を振るったと発言した行為に名誉棄損罪(230条1項)が成立するか。
2 「公然と」とは、不特定又は多数人が知りうる状況をいう。
 本件では、保護者3名(乙を除く)及びA高校の校長という多数人が知りうる状況で発言している。
 また、不特定及び多数人ではないとしても、保護者の噂話を通じて不特定又は多数人に情報が伝播するおそれがあるし、校長が実施する校内調査によって情報が伝播するおそれもある。
 したがって、「公然と」事実摘示したといえる。
3 「事実を摘示」したというためには、被害者が特定していなければならない。
 本件では、たしかに「2年生の数学を担当する教員」として被害者が特定していないとも思える。しかし、A高校2年生の数学担当教員は丙だけであるから、丙という特定の被害者に関する事実摘示である。
 そして、生徒に対して暴力を振るったという事実は外部的名誉を毀損しうるものである。
 したがって、乙の発言は「事実を摘示」したといえる。
4 乙は役員会において上記発言をすることによって、その事実を多くに人に広めようと考えているから、故意(38条1項本文)が認められる。
5 以上により、同罪の構成要件要素を満たす。
6 違法性が阻却されないか。
⑴ 230条の2について。丙が甲に暴力を振るったという事実が存在せず真実ではない。丙が甲に暴力を振るうという暴行罪(208条)に関する事実は「公共の利害に関する事実」とみなされるが(230条の2第2項)、丙の甲への暴行の事実も存在しない。乙は公益を図る目的もない。したがって、230条の2第1項の適用はない。
⑵ 「正当な業務による行為」(35条)とは、業務のための行為であり社会通念上相当なものをいう。
 本件では、たしかに甲はA高校のPTA会長であり、丙の甲への暴行の事実を調査するため役員会で発言することは社会通念上相当とも思える。しかし、乙はかねてから丙に対する個人的な恨みを抱いており、これを晴らすという個人的な目的のために発言している。そのため、社会通念上相当とは言えない。
 したがって、「正当な業務による行為」とは言えない。
7 違法性阻却事由の存在を誤認している場合には、犯罪事実の認識がなく反対動機の形成ができないため非難可能性を欠き、故意が否定される。
 本件では、たしかに乙は丙の甲への暴行を信じているから、公共に関する事実の存在及びその真実性を誤信している。しかし、乙は公益を図る目的がない。そのため、乙は230条の2第1項に該当する事実を誤認したとは言えない。
8 よって、故意も認められ、同罪が成立する。
設問2
第1 小問⑴
1 甲が乙の救助を一切行わずにバイクで走り去った不作為に殺人未遂罪(202条・199条)が成立するか。
2 不真正不作為犯の成立には、自由保障機能の観点から、作為犯との同価値性が必要である。具体的には、作為義務及び作為の可能性・容易性が必要である。
 本件において、乙が意識を失って倒れていた山道脇の駐車場には街灯がなく、午後10時30分当時、車や人の出入りがほとんどなかった。また、乙が転倒した場所は草木に覆われており山道及び同駐車場からは乙が見えなかった。乙は崖から転落する危険がある場所で転倒していたのであるから、乙の生命・身体の安全は、乙を発見した甲に依存していたといえる。そして、甲は乙の子として保護すべき立場であるから、乙を自動車の中に連れて行くなどして転落を防止すべき作為義務が認められる。甲がこのような作為義務を行うことは可能かつ容易であったにもかかわらず、乙の救助を一切せずバイクで走り去った行為は、作為犯と同価値性といえる。
3 その後、乙は崖下に転落し重傷を負い、死亡する危険性が発生している。
4 もっとも、甲の不作為と乙の上記のような危険性発生との間には乙の転落行為という事情が介在しているから因果関係が否定されないか。
 因果関係は、行為のもつ危険性が結果へと現実化した場合に認められる。
 本件において、乙の死の危険性発生の直接の原因は乙自身による転落行為にある。もっとも、崖近くで転倒して意識を失っている乙が、意識を取り戻した際に崖に転落することは不自然ではないから、甲が乙を放置する行為には、乙が意識を取り戻した際に崖下に転落することを誘発する危険性が認められる。したがって、甲の行為のもつ危険性が、乙の転落行為を介して結果へと現実化したといえる。
 よって、因果関係が認められる。
5 故意とは犯罪事実の認識及び認容である。
 本件では、甲は乙が転倒した場所が崖のすぐそばであり、崖下の岩場に乙が転倒する危険性を認識していたから、死亡の危険性について認識していた。そして、甲は乙から叱責されたことを思い出して乙を助けるのをやめようと考えているから、死亡の危険性発生について認容したといえる。
 よって、故意も認められる。
6 以上より、同罪が成立する。
第2 小問⑵
1 保護責任者遺棄致死罪と殺人未遂罪は、殺意の有無によって区別する。したがって、殺意が無いと反論する。
2 殺意の有無は、死亡の危険性の認識及び認容で判断する。
⑴ 認識について
ア 乙が転倒した時点では、乙の怪我は軽傷であり、その怪我によって死亡する危険性はなかったところ、甲は乙の怪我が軽傷であることを認識しているから、死亡の危険性について認識がない。
イ また、乙が崖のすぐそばで転倒していることは認識しているものの、乙自身によって崖下に転落することまでは認識していないから、転落により死亡の危険性が発生することの認識はない。
ウ さらに、これらの事実を未必的には認識していたとしても、確定的な認識は認められない。
⑵ 認容について
 甲は乙を助けるのをやめようとは思っているものの、これは乙が死亡する危険性まで認容するものとはいえない。
設問3
1 実行行為性の有無は、行為時に一般人であれば認識し得た事情及び行為者が特に認識していた事情を基礎に、一般人を基準に法益侵害の具体的危険性が認められるか否かで判断する。
 本件では、甲と同じ立場にいる一般人であれば丁を乙と誤認する可能性があったし、実際甲は丁を乙と誤認している。そのため、甲が放置した対象は乙であるとの事情を基礎に判断すると、乙は甲の親であるから、甲には乙を救助する作為義務があった。にもかかわらず、放置して救助しなかった甲の不作為には殺人未遂罪の具体的危険性が認められ、実行行為性がある。
2 認識事実と実現事実に具体的事実の錯誤があるものの、構成要件内で符合しているから故意が認められる。
3 成立する。
以上(2681文字)

 

再現答案民事系科目第3問(民事訴訟法)

民事系科目第3問

設問1
第1 課題⑴
1 Bに対する請求
⑴ Aは乙地裁において、Bに対して、共同不法行為に基づく損害賠償請求権(民法719条1項前段)として400万円の支払いを求める反訴を提起する(146条)。
⑵ Aの請求は、本訴であるBの訴えの訴訟物の反対形相であるから訴訟物が一部同一であり、「本訴の目的である請求…と関連する請求」といえる(146条1項本文)。
⑶ もっとも、Aの請求は142条に反しないか。
ア 142条が直接適用される「事件」の同一性とは、当事者及び訴訟物のみならず、請求も同一である場合をいう。
 本件では、Bの訴えは確認訴訟であるのに対して、Aの訴えは給付訴訟であるから、「事件」の同一性は認められず、142条が直接適用されることはない。
イ もっとも、142条の趣旨は、重複審理による被告の応訴の煩、訴訟不経済及び既判力の矛盾抵触のおそれを回避する点にある。そのため、これらの弊害が生じる場合には同条が類推適用される。
 本件において、Bの訴えの訴訟物は、共同不法行為に基づく損害賠償義務のうち、Aが主張する損害額400万円とBが見積もった150万円を差し引きした250万円の存否である。これに対して、Aの訴えの訴訟物は上記の通りであるから、250万円の範囲で訴訟物が同一である。
 そうすると、その範囲で重複審理及び既判力の矛盾抵触のおそれがあり、反訴は不適法であるとも思える。
イ しかし、反訴は本訴と同一の裁判所において審理判断されるから、重複審理による被告の応訴の煩や訴訟不経済は生じない。また、既判力の矛盾抵触も回避され、事実上矛盾抵触のおそれもない。
したがって、反訴の場合には、142条の所期する上記弊害は生じないから、同条は類推適用されず適法である。
2 Cに対する請求
⑴ 反訴も訴え提起の一種であるから、訴えの規定に従う(146条4項)。
⑵ B及びCは共同不法行為者であり合一確定の必要ではないから、Aの訴えは通常共同訴訟(38条)にあたる。
 そして、共同不法行為者の損害賠償義務は「訴訟の目的である権利又は義務が…共通」といえるから、同条前段の要件を満たす。
⑶ よって、Cに対する訴訟提起も認められる。
第2 課題⑵
1 Aは甲地裁において、B及びCに対して別訴提起する。
2 別訴の場合には、反訴の場合とは異なり、重複審理による被告の応訴の煩や訴訟不経済、既判力の矛盾抵触のおそれがあるから、142条類推適用により別訴は不適法とも思える。
3 もっとも、Bの訴えは250万円の損害賠償義務の存否の確認訴訟であるのに対して、Aの訴えは400万円の給付訴訟であるから、その額の点と給付判決には執行力がある点でBの訴えの利益を包摂する。そのため、Aには給付訴訟を提起する訴えの利益が認められる。この訴えの利益を保護すべきである。
一方で、上記弊害については、裁判所が訴訟を乙地裁に移送し(17条)、その上で弁論併合することを強制することよって回避することができる。
したがって、訴えの利益を保護するため、上記の通り、裁判所の裁量権を拘束して移送及び弁論併合を強制すべきである。
4 よって、別訴提起が142条類推適用により不適法とされることはなく、適法である。
設問2
1 Bは221条に基づき文書提出命令の申立てをする。
2 これに対してDは、Aの診療記録はいわゆる自己利用文書(220条4号ニ)に該当するから、提出を拒むことができると主張する。
 自己利用文書とは、専ら内部利用のために作成され外部に開示することが予定されていない文書であって、これを開示することによって個人のプライバシー侵害等の看過し難い不利益が生じるおそれがあり、特段の事情がないものをいう。
 本件において、Aの診療記録はその性質上病院内で利用するために作成され外部に開示することは予定されておらず、診療記録にはAの病歴などの秘匿性の高い情報が含まれているから、これを開示することによりAのプライバシー侵害という看過し難い不利益が生じるおそれがある。特段の事情もない。
 したがって、自己利用文書に該当し、提出を拒絶できる。
3 これに対するBの主張は以下のとおりである。たしかに、Aの過去の診療記録をすべて提出するのであれば看過し難いプライバシー侵害のおそれがある。しかし、本件では、Aが既にあった症状の治療を上乗せして請求してないかどうかや、後遺症が本件事故と無関係なものでないかを確認するために必要な範囲で提出を求めるものにすぎない。そのため、看過し難い程度のプライバシー侵害が生じるとはいえない。
 したがって、Aの診療記録は自己利用文書には当たらない。
設問3
第1 主張アの当否
1 補助参加の申出は、「補助参加人としてすることができる訴訟行為」と「ともに」することができるから、第一審で補助参加していないBであっても、補助参加の申出と同時に控訴提起することは可能である(43条2項)。
2 補助参加人は「上訴の提起」をすることができる(45条1項本文)。そして、Bが控訴提起したのはAの控訴期間内(285条)であるし、AのCに対する請求は全部棄却判決となっており控訴の利益も認められるから、45条1項ただし書きにも反しない。
3 たしかに、AはCに対して控訴するつもりがなかったが、これは積極的に控訴提起する意思まではなかったにとどまり、控訴提起をしないとの訴訟行為があったとまでは言えない。そのため、Bの控訴提起がAの「訴訟行為と抵触する」(45条2項)とは言えない。
4 したがって、主張アは不当である。
第2 主張イの当否
1 補助参加の利益(42条)について、訴訟の結果につき「利害関係」がある場合とは、法律上の利害関係をいい、法的地位に対して法律上又は事実上不利な影響を及ぼすおそれがある場合をいう。
2 本件において、AC請求が全部棄却された場合、Cの損害賠償義務が不存在であると確定される。共同不法行為者は不真正連帯債務を負うと解され、負担部分を超える賠償をした場合には、他の共同不法行為者に対して求償権を取得する。そのため、AC請求全部棄却という判決主文の判断によって、Bの求償権の存否という法的地位に事実上不利な影響を生じる。
 したがって、補助参加の利益がある。
3 よって、控訴は適法である。
以上(2545文字)

 

 

再現答案民事系科目第2問(商法)

民事系科目第2問

設問1
1 甲社は、433条2項各号にあたるとして拒絶する。
2 1号について
 株主の「権利の確保又は行使に関する調査以外の目的」とは、株主としての権利行使等とは無関係な目的のための請求をいう。
 本件では、たしかに、Aの取締役としての損害賠償責任の有無を検討のためであるとして、株主としての権利行使のために請求とも思える。しかし、Dは、甲社に対して興味を失っており、Aがリベートを受け取っていたかどうかはどうでもよいと考えているから、責任追及という株主としての権利行使のための請求とは言えない。
 したがって、1号に該当し、拒否することができる。
3 3号について
 「実質的に競争関係」にある請求者に対する拒絶を認めている趣旨は、会計帳簿等は会社にとって重要な内部情報であることから、これらの情報が競業相手に漏れる抽象的危険を防止する点にある。したがって、請求者が実質的に競業関係にあれば、その主観的意図を問わず一律に拒否できる。
 本件において、たしかに請求者であるD自身は甲社と競業する事業を営むものではない。もっとも、Dは甲社と同様にハンバーガーショップを営む乙社の一人株主であるから、Dと乙社は同視される。しかし、乙社は甲社が出店する予定のない近畿地方のQ県で事業を営んでいるから、現在及び将来において甲社の事業と競業するおそれはない。したがって、乙社ひいてはDは甲社と「実質的に競業関係」にあるとは言えず、3号は認められない。
設問2
第1 小問⑴
1 決議1
⑴ 解任議案について解任の対象とされている取締役には公正な議決権行使を期待できないから、「特別の利害関係を有する者」といえる。本件決議1においCは「特別の利害関係を有する者」である。もっとも、Cは250個の議決権しか有していないから、Cの議決権行使に「よって」決議がされたとは言えない。したがって、831条1項3号には該当しない。
⑵ よって、取消事由は認められない。
2 決議2
⑴ 本件決議2はAの解任する旨の議案であるから、解任の正当な理由を判断する上で、Aの不正なリベートの受け取りの有無は重要な判断材料となる。それにもかかわらず、議長であるAが議案と無関係であるとして説明を制止したことは、議事運営権(315条1項)の逸脱濫用であり、「決議の方法」が「著しく不公正」(831条1項1号)と認められる。
⑵ 本件決議は2はAを解任する旨の事案であるから、Aは「特別の利害関係を有する者」である。そして、Aの議決権行使に「よって」「著しく不当な決議」がされたといえるから、3号が認められる。
⑶ もっとも、株主総会決議の取消しの訴えに出訴期間等が規定されている趣旨は、決議の存在を前提として積み重なる法律関係の法的安定性を図る点にある。そのため、法律関係が積み重なることのない否決の決議は「決議」(831条1項柱書)に含まれない。本件決議2は否決の決議であるから、取消しを求めることはできない。
第2 小問⑵
1 Aの責任
⑴ 間接取引について
ア 間接取引(356条1項3号)とは、株主の利益保護を徹底するため、実質的に会社と取締役の利益衝突が認められる取引をいう。
 本件契約に基づく連帯保証契約は、主債務者を甲社の「取締役」以外の者であるGとするものであり、形式的には甲社と甲社取締役との利害衝突はない。しかし、本件契約によるとGが融資契約を締結する目的はGがDの株式を取得する資金を獲得する点にあり、これによってDのC解任議案への反対を封じ、もってCと対立していたAの経営権確保を図ることが目的である。そうすると、甲社「取締役」Aの経営権確保という利害のために、甲社が保証債務を負担するものであるから、実質的には利益衝突が認められる。
 したがって、間接取引にあたる。
イ 甲社は800万円の弁済をしており、Gに対して求償ができていないから、800万円の「損害」がある。
ウ よって、Aには任務懈怠が推定される(423条3項1号)。
⑵ 後述のとおり、本件契約はGに対する利益供与にあたるから、Aは責任を負う(120条4項・規則21条1号)。
2 Gの責任
⑴ 本件契約はGに対する利益供与にあたるから、Gは利益の返還義務を負う(120条3項)。
⑵ 本件契約は、C解任議案に対して反対するつもりであったDの株式をGが買い取るために、甲社が融資契約の連帯保証する旨の約定がある。Dの株式を買い取ることによってC解任議案への反対を封じることができ、株主の議決権行使に影響を与えるものであるから、「株主の権利の行使に関し」といえる。
⑶ 本件契約のような保証をする場合、本来でれば保証料は60万円を下回らないものであったにもかかわらず、本件契約では保証料の支払いを求めないこととされているから、「利益の供与」がある。
設問3
1 会社法174条の売渡請求権の趣旨は、相続により株式が分割されて細分化することにより、会社の事務処理に支障を来すことを回避する点にある。したがって、そのような趣旨に反しない場合には、売渡請求をすることはできない。
2 本件において、甲社株式はAの唯一の相続人であるBは単独相続するから、株式が細分化するおそれはない。むしろ、401株のみ売渡請求することにより細分化のおそれが生じる。
 また、Cは自らが代表取締役社長の地位にとどまることを目的として売渡請求をしているから、上記趣旨に合致しない。
3 よって、上記趣旨に反し、売渡請求は認められない。
以上(2216文字)

 

再現答案民事系科目第1問(民法)

民事系科目第1問

設問1
1 BはAに対して、本件売買契約(555条)に基づく代金支払請求として代金50万円の支払いを請求する。
2 これに対してAは、本件売買契約に基づく目的物引渡債務との同時履行の抗弁権(533条本文)を主張する。
⑴ もっとも、Bは一度松茸を用意していることから、「履行の提供」があったとして同時履行の抗弁権が消滅しないか。
ア 本件売買契約はB所有の乙倉庫において松茸の引渡しをすることになっているから、Bの目的物引渡債務は取立債務である。そのため、履行提供は履行の「準備」及び「通知」で足りる(493条ただし書き)。本件において、Bは本件売買契約の約定に合う松茸5キログラムの箱詰めをして「準備」し、Aに対して電話で連絡しているから「通知」が認められ、履行提供をしている。
イ もっとも、履行請求に対する同時履行の抗弁権を否定するためには一度だけ履行提供しただけでは足りず、履行提供を継続する必要がある。行使上の牽連性を確保すべきであるからである。本件では、後述の通り、Bは目的物引渡債務の履行提供を継続することができなくなっているから、同時履行の抗弁権を否定できない。
⑵ もっとも、松茸の盗難により引渡債務は消滅したとして、同時履行の抗弁権が消滅しないか。
ア 種類債務であっても特定が生じた場合には履行不能になりうる。特定が生じる「物の給付をするのに必要な行為を完了」とは、履行の準備及び通知では足りず、目的物の分離が必要である。本件では、Bは、松茸を収穫して乙倉庫に運び入れた上で、本件売買契約の約定に合う松茸5キログラムを箱詰めして、他の松茸と分離している。
したがって、Bは「物の給付をするのに必要な行為を完了」したといえ、目的物は特定した。
イ そして、何者かが乙倉庫内の松茸を盗み去っているから、Bの上記松茸の引渡債務は履行不能となった。
⑶ もっとも、履行不能による損害賠償請求義務(415条後段・416条)との同時履行の抗弁権が存続しないか。
ア Bは、特定物の引渡債務者として善管注意義務を負う(400条)。CにはBから受けた指示をうっかり忘れて簡易な錠のみで施錠して倉庫を離れるという注意義務違反があるところ、報償責任の観点から、Cを雇うBの注意義務違反と同視できる。そのため、Bに帰責事由が認められるとも思える。
イ もっとも、本来Aが引取りに来るはずであった9月21日午後8時頃から翌日午前7時頃までは、BはCに対してしっかり施錠するよう指示し、CもBの指示に従い強力な倉庫錠を利用し二重に施錠しているから帰責事由が認められない。そうすると、Aが引取りに行くことができなかった時点以降のBの帰責事由は否定すべきではないか。
 債権者が引渡債務の債務者に対して取立てを延期することを通知し、これを債務者が了承した場合には、以後も債務者は善管注意義務を負うべきである。このように考えても、了承がある以上、債務者にとって過大な負担とはならないからである。
 本件では、AはBに対して21日午後8時頃、今日は引取りに行けないと電話で通知しており、Bもこれを了承しているから、Bは以降も善管注意義務を負っていた。
ウ したがって、損害賠償義務が発生し、上記抗弁権が存続する。
3 よって、Bの請求は認められない。
設問2
第1 小問⑴
1 他人の所有物に対する不法占有による所有権侵害をしている場合、撤去義務を負うのは原則として不法占有をしている物の所有者である。撤去する権限を有するのは原則として所有者であるからである。
2 もっとも、所有権者以外の者に使用・収益権が移転している場合には、その者に撤去権限が帰属するため、例外的に撤去義務を負う。本件では、AD間における中古トラックの売買契約において、Aが代金完済するまで中古トラックの所有権をDに留保することになっているから、Dが所有権者として撤去義務を負うとも思える。しかし、Aはトラックの引渡しを受け占有し利用できるとされているから、使用収益権はAに移転しており、Aが撤去義務を負う。
3 よって、Dのアの発言は正当である。
第2 小問⑵
1 自らの意思で対抗要件を具備した者は、所有権の喪失についても対抗要件を具備しない限り、その喪失を第三者に対抗することができない。そして、所有権の喪失を対抗できないのと同様に、使用収益権の喪失も第三者に対抗することができない。
2 本件では、Dは自らの意思で中古トラックの対抗要件を具備していたものと考えられる。そして、上記売買契約をしたものの、DからAに対する所有権の移転登録(法5条)がされていない。したがって、Dは使用収益権の喪失をEに対抗できず、撤去義務を負う。AはDに対して廃業通知はしたものの転居先を通知することはしておらず、そのためにDはAの所在を知らないのであるから、Dが無断で中古トラックの撤去をしてもAの使用収益権を不当に害することにもならない。
2 よって、Eは丙土地の所有権に基づく返還請求権として、丙土地を不法占有しているDに対して、撤去請求ができる。
設問3
1 本件遺言の解釈
⑴ Hについて
 Cは生前、Hに対する廃除の申立てをしており確定している。また、本件遺言において廃除の意思を変えるものではないとしているから、廃除の取消し(894条2項・893条)ではない。そのため、Hは相続人ではない。
 したがって、本件遺言は、相続人以外のHに対して、200万円の定期預金を特定遺贈(964条)する趣旨である。
⑵ F及びGについて
 F及びGはCの「子」であるから相続人である(887条1項)。
 そうすると、本件遺言は、積極財産である1200万円の定期預金をFが、600万円の定期預金をGが承継するよう、遺産分割方法を指定(908条)する趣旨である。
 そして、Cは借入金債務300万円の存在を認識していたはずであるところ、Cは気にかけてくれたFをGよりも多く積極財産を相続させる意思であると考えられるから、借入金債務を多く相続させる趣旨ではない。
 したがって、F及びGは、借入金債務の2分の1に当たる150万円ずつを承継する。
2 よって、Fは703条に基づき150万円を請求できる。
以上(2504文字)

 

再現答案公法系科目第2問(行政法)

公法系科目第2問

設問1
第1 小問⑴
1 本件取消訴訟において、D及びEは原告適格(行訴法9条1項)があるとして以下のとおり主張する。
 「法律上の利益を有する者」とは、当該処分を定める行政法規が個々人の個別的利益として保護する利益を、当該処分がされることにより侵害され又は必然的に侵害されるおそれがある者をいう。そして、本件のように処分の名宛人以外の原告適格の検討では9条2項により判断する。
2 Dの原告適格
⑴ Dは、墓地経営許可の根拠規定である墓埋法10条は、墓地経営の経営権を個々人の個別的利益として保護しており、Dは本件許可により自らの墓地経営が立ち行かなくなり、墓地経営権を必然益に侵害されるおそれがあると主張する。
⑵ これに対して、B市は、墓地経営権は公益に吸収解消されるものであるから、個々人の個別的利益とは言えないと反論する。
⑶ 本件条例は墓地の経営主体を原則として地方公共団体に限定し、各号に該当する者に限り例外的に許可をする(条例3条1項)。このように、墓地経営においては公益性が要求されている。
 また、経営許可の申請書において「経営に関する資金計画書」の添付を義務付けており(条例9条2項5号)、墓地経営について安定性に配慮している。
このように公共性及び安定性を要求している趣旨は、墓地経営が悪化することにより、周辺地域の生活環境及び衛生環境を害するおそれがあるからである。
したがって、墓地経営の悪化により生活環境及び公衆衛生を害さないよう、法は経営許可により墓地経営権に重大を支障が生ずるおそれのある者の墓地経営権を個々人の個別的利益として保護する。
Dは、小規模な墓地を経営している者であり、既に墓地が余り気味で空き区画が出ているから、本件許可により自己が経営する墓地の経営悪化や廃業のおそれがある。
よって、墓地経営権に重大な支障が生じる者であり原告適格がある。
3 Eの原告適格
⑴ 条例13条1項ただし書き及び14条1項ただし書きは、「公衆衛生」を保護する。14条2項は「生活環境」を保護する。また、墓地等の設置場所につき「飲料水を汚染するおそれのない場所」とし(条例13条2項)、墓地の構造設備について「雨水等が停滞しないようにするための排水路」や「便所」、「ごみ処理のための設備」等の設置を基準としている(条例14条1項各号)趣旨は、墓地経営の悪化により生活環境等が害されないよう保護する趣旨である。
 そのため、これらの利益を直接害される者の生活環境及び公衆衛生は個別的利益として保護され、原告適格が認められる。
⑵ 本件許可により、生活環境及び公衆衛生への悪化が懸念されるから、原告適格が認められる。
第2 小問⑵
1 本件条例13条1項違反について
⑴ Eは、本件事業所が本件土地から約80メートルの位置に存在することから、本件許可は、本件条例13条1項2号に違反すると主張する。
⑵ これに対してB市は、本件墓地は宗教的感情に適合し、公衆衛生に支障が生じることがないから(本件条例13条1項ただし書き)、違法ではないと反論する。
⑶ またB市は、Dは本件許可処分を阻止しようと考えて、Eは特に移転の必要性がなかったにもかかわらず、本件事業所を移転されているから、上記の通り、宗教的感情及び公衆衛生を害しないと反論する。
2 実質的な経営者について
⑴ Cは自らが墓地の経営許可を受けることができず、墓地経営のためには宗教法人であるAの協力が必要であったことから、大規模な墓地の経営の提案をAに持ち掛けたのであるから、本件墓地の経営にはCが大きく関与している。また、Aは財政的に困難であったところ、Cは本件墓地経営に必要な費用を全額無利息で融資しているから、金銭的にも大きく寄与している。これらの事情から、本件墓地の実質的な経営主体はCである。
⑵ 本件条例3条1条ただし書きが経営主体を宗教法人等に限定している趣旨は、墓地経営の悪化により生活環境等に支障が生じないように経営主体に公益性及び安定性を要求する点にある。したがって、公益性及び安定性がない者に許可してはならない。
 Cは、墓地用石材の販売等を扱う株式会社であるから公益性はない。また、景気悪化のおそれもあることから安定性もない。
 よって、実質的な経営者がCである本件申請に対する許可は同条に反し違法である。
3 主張制限
 「法律上の利益」に関連する主張しか認められない(行訴法10条1項)。
 上記主張は、生活環境及び公衆衛生の保護に関連するから認められる。
設問2
1 本件墓地の設置にあたり生活環境への配慮が十分でないから、本件条例14条2項に違反する。
以上(1896文字)