再現答案民事系科目第2問(商法)

民事系科目第2問

設問1
1 甲社は、433条2項各号にあたるとして拒絶する。
2 1号について
 株主の「権利の確保又は行使に関する調査以外の目的」とは、株主としての権利行使等とは無関係な目的のための請求をいう。
 本件では、たしかに、Aの取締役としての損害賠償責任の有無を検討のためであるとして、株主としての権利行使のために請求とも思える。しかし、Dは、甲社に対して興味を失っており、Aがリベートを受け取っていたかどうかはどうでもよいと考えているから、責任追及という株主としての権利行使のための請求とは言えない。
 したがって、1号に該当し、拒否することができる。
3 3号について
 「実質的に競争関係」にある請求者に対する拒絶を認めている趣旨は、会計帳簿等は会社にとって重要な内部情報であることから、これらの情報が競業相手に漏れる抽象的危険を防止する点にある。したがって、請求者が実質的に競業関係にあれば、その主観的意図を問わず一律に拒否できる。
 本件において、たしかに請求者であるD自身は甲社と競業する事業を営むものではない。もっとも、Dは甲社と同様にハンバーガーショップを営む乙社の一人株主であるから、Dと乙社は同視される。しかし、乙社は甲社が出店する予定のない近畿地方のQ県で事業を営んでいるから、現在及び将来において甲社の事業と競業するおそれはない。したがって、乙社ひいてはDは甲社と「実質的に競業関係」にあるとは言えず、3号は認められない。
設問2
第1 小問⑴
1 決議1
⑴ 解任議案について解任の対象とされている取締役には公正な議決権行使を期待できないから、「特別の利害関係を有する者」といえる。本件決議1においCは「特別の利害関係を有する者」である。もっとも、Cは250個の議決権しか有していないから、Cの議決権行使に「よって」決議がされたとは言えない。したがって、831条1項3号には該当しない。
⑵ よって、取消事由は認められない。
2 決議2
⑴ 本件決議2はAの解任する旨の議案であるから、解任の正当な理由を判断する上で、Aの不正なリベートの受け取りの有無は重要な判断材料となる。それにもかかわらず、議長であるAが議案と無関係であるとして説明を制止したことは、議事運営権(315条1項)の逸脱濫用であり、「決議の方法」が「著しく不公正」(831条1項1号)と認められる。
⑵ 本件決議は2はAを解任する旨の事案であるから、Aは「特別の利害関係を有する者」である。そして、Aの議決権行使に「よって」「著しく不当な決議」がされたといえるから、3号が認められる。
⑶ もっとも、株主総会決議の取消しの訴えに出訴期間等が規定されている趣旨は、決議の存在を前提として積み重なる法律関係の法的安定性を図る点にある。そのため、法律関係が積み重なることのない否決の決議は「決議」(831条1項柱書)に含まれない。本件決議2は否決の決議であるから、取消しを求めることはできない。
第2 小問⑵
1 Aの責任
⑴ 間接取引について
ア 間接取引(356条1項3号)とは、株主の利益保護を徹底するため、実質的に会社と取締役の利益衝突が認められる取引をいう。
 本件契約に基づく連帯保証契約は、主債務者を甲社の「取締役」以外の者であるGとするものであり、形式的には甲社と甲社取締役との利害衝突はない。しかし、本件契約によるとGが融資契約を締結する目的はGがDの株式を取得する資金を獲得する点にあり、これによってDのC解任議案への反対を封じ、もってCと対立していたAの経営権確保を図ることが目的である。そうすると、甲社「取締役」Aの経営権確保という利害のために、甲社が保証債務を負担するものであるから、実質的には利益衝突が認められる。
 したがって、間接取引にあたる。
イ 甲社は800万円の弁済をしており、Gに対して求償ができていないから、800万円の「損害」がある。
ウ よって、Aには任務懈怠が推定される(423条3項1号)。
⑵ 後述のとおり、本件契約はGに対する利益供与にあたるから、Aは責任を負う(120条4項・規則21条1号)。
2 Gの責任
⑴ 本件契約はGに対する利益供与にあたるから、Gは利益の返還義務を負う(120条3項)。
⑵ 本件契約は、C解任議案に対して反対するつもりであったDの株式をGが買い取るために、甲社が融資契約の連帯保証する旨の約定がある。Dの株式を買い取ることによってC解任議案への反対を封じることができ、株主の議決権行使に影響を与えるものであるから、「株主の権利の行使に関し」といえる。
⑶ 本件契約のような保証をする場合、本来でれば保証料は60万円を下回らないものであったにもかかわらず、本件契約では保証料の支払いを求めないこととされているから、「利益の供与」がある。
設問3
1 会社法174条の売渡請求権の趣旨は、相続により株式が分割されて細分化することにより、会社の事務処理に支障を来すことを回避する点にある。したがって、そのような趣旨に反しない場合には、売渡請求をすることはできない。
2 本件において、甲社株式はAの唯一の相続人であるBは単独相続するから、株式が細分化するおそれはない。むしろ、401株のみ売渡請求することにより細分化のおそれが生じる。
 また、Cは自らが代表取締役社長の地位にとどまることを目的として売渡請求をしているから、上記趣旨に合致しない。
3 よって、上記趣旨に反し、売渡請求は認められない。
以上(2216文字)